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東京高等裁判所 昭和59年(ラ)334号 決定

抗告人(債権者)

松下電工株式会社

右代表者

小林郁

右代理人

阿部三郎

古瀬明徳

八代ひろよ

債務者

破産者栄商事株式会社破産管財人

梶谷玄

第三債務者

日新建設株式会社

右代表者

水田利雄

主文

一  原決定を取り消す。

二1  債権者の申立てにより、別紙請求債権の弁済に充てるため、別紙担保権目録記載の動産売買の先取特権(物上代位)に基づき、債務者が第三債務者に対して有する別紙差押債権目録記載の債権を差し押さえる。

2  債務者は、前項により差し押さえられた債権について取立てその他の処分をしてはならない。

3  第三債務者は、第1項により差し押さえられた債権について債務者に対し弁済をしてはならない。

理由

一抗告代理人は、主文と同旨の裁判を求め、その抗告理由は別紙記載のとおりである。

二よつて、検討するに、記録によれば、次の事実が認められる。

1  本件差押債権は、債務者と第三債務者間の昭和五八年九月一四日付契約に基づき(一)ユニットバス(組立式浴場ユニット)四六台及び(二)厨房用品等を債務者が第三債務者に納入し、第三債務者が埼玉県春日部市内に建築するマンション内にこれらを組み立て設置することに対する代金合計一二六五万円((一)の代金六三〇万円(二)の代金六四〇万円計一二七〇万円から五万円を値引したもの。)のうちの(一)のユニット代金相当額五〇五万七八〇〇円である。

2  右ユニットバスは、すべて債権者の製作にかかる二種類の規格製品であり、組立後における一台の室内容量は3.6立方メートル(面積約1.8平方メートル。高さ約二メートル。)でそれ程大きいものではなく、債権者と債務者間の継続的取引契約に基づき債務者が債権者からこれら四六台を代金五〇五万七八〇〇円(値引前の単価は一台一一万二五〇〇円と一二万四五〇〇円との二種類である。)で買い受けた上、1のとおり第三債務者に納品設置することを約したものである。

3  債務者と第三債務者との間における1の契約中(一)の値引前の代金六三〇万円の内訳(ユニット代金分と組立設置費分)は明らかでないが、ユニットの器材、部品等の大半は原形のままで組立設置されており、ユニット代金分は2の五〇五万七八〇〇円を下廻ることがないものと認められるので、組立設置費分は一二四万二二〇〇円を超えないこととなる。なお、債務者は、債権者指定の工事業者である和建工業有限会社に依頼して右組立設置を施工しているが、同工事につきそれ程大きな労力を要するものとは認められない。

三債権者は、二2の売買契約に基づく動産売買の先取特権者として、民法三〇四条の規定に従い、二1の契約に基づく代金一二六五万円のうちユニット代金相当額の債権につき本件差押命令の申立に及んでいるものであるが、このように、動産の買主が第三者との契約によりこれを加工した上右加工物の所有権を第三者に有償で移転した場合、加工物の代金債権の一部につき動産売買先取特権の物上代位性の有無、範囲を判断するに当つては、動産と加工物との外観上の相異、加工に要する労力の程度、加工物の代金債権額に占める加工代金額の割合等を総合的に観察して、動産が加工の結果社会通念上価値の異る他の物に転化したことにより当初の売買契約の目的物とみなし得なくなつたか否かを決し、両者の価値的同一性が肯定される場合には動産の売買代金相当額を物上代位の及ぶ範囲と定めるのが相当であると考える。

これを本件について見ると、前記二の事実によれば、ユニットの器材等の大半は原形のままで組立設置されており、組立後の浴室はそれ程大きいものでも高価なものでもなく、また、組立設置工事につき多大の労力を要するものとは言い難く、右工事費用もユニットバス代金の五分の一以下(前記二3参照)に過ぎないのであるから、これらを総合するならば、債務者が債権者から買い受けた本件ユニットは、組立設置工事の結果価値の異る他の物に転化したものとは認められず、また、右ユニットの売買代金額は五〇五万七八〇〇円を下廻ることがないものと認められるので、債権者は、ユニット売買の先取特権者として、右ユニットの価値代表物である債務者の第三債務者に対する前記ユニットバス代金債権のうちユニット売買代金相当額につきその権利を行使できるものというべきである。

四よつて、本件申立は理由があり、右申立を却下した原決定は不当であるから、これを取り消した上本件申立を認容することとし、主文のとおり決定する。

(宍戸清七 安部剛 笹村將文)

抗告の理由

一、抗告人は、昭和五九年五月一八日、動産売買の先取特権(物上代位)に基づき、債務者の第三債務者に対する請負代金債権中の売買動産価格部分に対して差押命令の申立てをなし、東京地方裁判所昭和五九年(ナ)第一九〇六号として受理された。

二、東京地裁民事二一部は、昭和五九年六月二八日、請負代金(報酬)が仕事完成に必要な一切の労力・材料その他を包含するものであることを根拠に、「請負契約締結に際して見積書が作成され、特定の材料の価格を記載することがあつたとしても、そのことからその価格が請負代金中の当該材料に直接代わるべき価値の代表物ということはできない。」として差押適格を否定し、本件申立を却下した。

三、しかし、同決定は、第一に請負代金の一般的性格から、直ちに、動産売買の先取特権は請負代金には及ばないとしている点で、民法三〇四条の適用に誤りがあり違法である。

四、請負契約において、請負人が材料を提供する場合に、注文者より請負人が受くべき請負代金債権中には、仕事の完成に必要な一切の労力に対する対価の部分と材料の対価の部分とが包含されている。

それゆえ、材料となつた動産売買の先取特権に基づき、請負代金全体に対して物上代位してゆく場合には、当該材料に直接代わるべき価値の代表物以外の仕事完成に必要な一切の労力の対価部分にも、物上代位の効果を及ぼすことになり、不当といえよう。

但し、これについては、これを否定すると、物上代位の効力が著しく減殺されることから、先取特権の効力は、目的物の価値代表物を含むものの上に全体として及ぶとするのが有力学説である(柚木・高木、法律学全集一九、四六頁)。

五、しかし、本件の場合、抗告人が主張する差押債権は、「請負代金全体」ではなく、さらに決定が言う「見積書に記載された当該材料の価格」でもないのである。

抗告人が主張する差押債権は、「請負代金中の客観的な当該材料の対価部分の価格」である。そして、この部分はまさに、当該材料に直接代わるべき価値の代表物といえるものである。

よつて、民法三〇四条の物上代位が可能な債権となる。

六、民法三〇四条には、「物上代位は、滅失・毀損により債務者が受くべき金銭にも行なうことができる。」としているが、この場合においても対価の評価は、後で判定されるものである。

この点、請負代金においても、請負代金債権中、当該材料の価格部分の割合及び具体的評価は、後で判定されるものとすれば、滅失・毀損の場合と異ならない。

七、第二に本決定は、「請負契約締結に際して見積書が作成され、特定の材料の価格のを記載することがあつたとしても、そのことからその価格が請負代金中の当該材料に直接代わる価値の代表物ということはできない。」として、差押債権の差押適格を否定しているが、抗告人が主張する差押債権は、見積書の価額ではなく、その中に含まれている「客観的な当該材料の対価部分たる価格」についてであり、この点、決定には事実の誤認がある。

差押債権目録

金五、〇五七、八〇〇円

但し、申請外栄商事株式会社が昭和五八年九月一四日付第三債務者との契約に基づき、昭和五八年一二月一五日から昭和五九年三月四日までの間に、第三債務者の工事現場、埼玉県春日部市中央一―六―一〇ライフピア春日部に納入設置した別紙記載の商品の代金で同設備工事金一二、六五〇、〇〇〇円に含まれている金額。

担保権・被担保債権・請求債権目録

一、担保権

下記二記載の売買契約に基づく動産売買の先取特権(物上代位)

二、被担保債権及び請求債権

金 五、〇五七、八〇〇円

債権者が、昭和五八年一二月一日付代理店契約に基づき、昭和五八年一二月一六日から昭和五九年二月一六日までの間に申請外栄商事株式会社に売り渡した別紙記載の商品の代金債権。

物件目録〈省略〉

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